生活林づくりプロジェクト<ナルチャン・サリジャ地域> -第3フェーズ-
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1. プロジェクト・サイトと実施期間

位置図 ネパール・ミャグディ郡ナルチャン地域およびパルバット郡サリジャ地域(ポカラより北西へおよそ40km)。
 プロジェクト実施期間(第3フェーズ)は2008年度〜2009年度である。(第1フェーズは2005年度、第2フェーズは2006〜2007年度であった)

※2009年2月3日から1年間は、日本NGO連携無償資金協力(外務省民間援助連携室)により実施します。

2.事業計画

(1)事業の目的およびび内容

 ネパール西部のミャグディ郡およびパルバット郡において、自然環境を保全するとともに、森林資源を活用しながら住民の生活改善をすすめ、地域社会を活性化させることを目的として以下の事業をおこなう。
 これまでに建設した苗畑の苗木生産能力を一定水準まで向上させ、植林地への植樹を軌道にのせ、住民の主体的参加による、苗畑の自立運営、持続的・継続的な植林・森林管理を実現する。
 昨年度に建設を開始した、集落と森林地域とをむすぶ通路(trail)を延長・完成させ、堆肥・薪、その他の森林資源等の運搬にかかわる住民の労働を軽減し、住民の生活を改善する。
 昨年度に建設を開始した織物施設(イラクサ加工施設)および紙漉施設(ロクタ紙加工施設)を完成させて、織物事業および紙漉事業を開始し、またその経営を軌道にのせ、住民の収入向上をはかる。
 上記を推進するために、苗畑管理人・森林委員・現地住民に対して、森林資源の利用、換金作物の育成、森林経営、事業運営、マネージメントに関するトレーニングもおこなう。
 本事業は、2005年度に策定した「生活林づくりプロジェクト」の計画(第1〜第3フェーズ)の最終フェーズ(すなわち第3フェーズ)であり、今回の事業をもって、すべての施設を完成させる。

(2)事業の背景と実施計画

 ネパール・ヒマラヤでは、いちじるしい人口増加とともに森林の減少がすすんでいる。それは、ネパール・ヒマラヤで暮らす人々が、生活(堆肥や薪、家畜飼料の採取など)のため森林を伐採しなければならないからである。森林が伐採された後には荒廃地がのこり、地域の環境破壊が深刻な問題になっている。
 森林を利用し、それを減少(後退)させたのは住民であるが、一方で、住民は森林に依存した生活をしているため、森林が後退することにより住民の生活はくるしくなる。そして住民は、森林伐採を奥地へとさらにすすめ、生活が一層くるしくなるという「悪循環」が生じてしまっている。そこで、ヒマラヤ保全協会は、森林を再生させるとともに、住民の生活を改善し、地域を活性化させることを目的に「生活林づくりプロジェクト」を開始した。
 「生活林」とは、単に木材を生産するだけではなく、薪・家畜飼料・食品・薬品・土壌保全機能など、住民が生活していくうえで重要な機能をかねそなえた森林であり、住民の最も重要な生活基盤となる森林のことである。森林は本来、木材などの生産の場であるとともに、下草の刈り場や肥料となる落ち葉集めの場であり、また、田畑や飲料水の水源でもあった。公益的機能を失わずに森林資源を開発できる「生活林」をつくることにより、自然環境と住民の生活を調和させ、森林と人間とが持続的に共存していく道を開くことができる。

(A)持続的・継続的な植林と森林保全

 今回事業をおこなうナルチャン村は、ミャグディ郡ナルチャンVDCVillage Development Committee)に属し、人口は1,896人(2001)であり、集落は上下に分かれて存在し、上村の標高は2,200m、下村の標高は1,250mである。一方、サリジャ村は、パルバット郡サリジャVDCに属し、人口は3,325人(2001)、標高1,6003,000m(平均2,200m)に位置する。
 2005年度から実施した「ネパール山村での生活林づくりプロジェクト」(第1フェーズ)により、パルバット郡サリジャ村およびミャグディ群ナルチャン村において、地域住民が利用できる生活林造りをめざして、育苗・植林に関する長期計画(10ヵ年計画)および3ヵ年計画を住民参加により策定し、苗畑を建設した。

A-110ヵ年計画(長期計画)
 10ヵ年計画(長期計画)は次の通りである。
〔植林地の面積および苗木の生産本数〕ナルチャン村およびその周辺地域には、47ヘクタールの植林すべき土地が存在する。この面積に120,000本の苗木を植える必要がある。一方のサリジャ村およびその周辺地域には、48ヘクタールの植林すべき土地が広がっている。この面積には130,000本の苗木を植える必要がある。
 両地域をあわせると、95ヘクタールの面積に、計250,000本の苗木を10年間かけて植える、最初の3ヵ年で64,000本(1年目16,000本、2年目21,000本、3年目27,000本)、その後年間約27,000本の苗木を植え続けるという計画である。
 したがって、苗畑は、本年度において拡充・整備し、少なくとも10年間は運営を続け、95ヘクタールの面積に苗木を供給しつづけることになる。

〔目的〕目的は次の通りである。
・森林を再生させることによりにより、地滑りなどの自然災害や、雨季の土壌浸食を防止する。
・森林により水源を確保する。
・住民の生活に必要な家畜飼料や薪・材木などを生産する。
・村落近辺に森林を再生させることにより、家畜飼料や薪の採集に要する労働時間を短縮する。
・換金樹種を採取・栽培・加工・販売して住民の所得向上をはかる。
・住民の生活環境を整備し、生活を改善する。
・地域を活性化させる。

A-23ヵ年計画
 10ヵ年のうち最初の3ヵ年で次の計画を実施する。
〔植林地の面積および苗木の生産本数〕ナルチャン村には20ヘクタール、サリジャ村には23ヘクタール、合計43ヘクタールの植林すべき土地が存在する。3ヵ年計画では、この植林地のうちの約24ヘクタールに64,000本の苗木を植える。そのために、この需要にこたえる数の苗木を生産・供給できる苗畑を段階的に拡充・整備していく。また、総延長2,100mのフェンス(家畜が侵入して苗木を食べないようにするための石垣)を建設する。

〔目的〕目的は次の通りである。
・植林を開始し、軌道にのせる。
・住民自らが森林を管理・利用できるようにする。
・森林資源を有効に利用して住民の生活を改善する。
・森林資源(紙になるロクタ、生地になるイラクサなど)を採取、加工・販売して、住民の所得を向上させる。
・住民参加により村人の意識を啓発し、コミュニティ能力を向上させる。

 本年度の苗畑運営・植林計画は、昨年度までの成果を踏まえ、苗木の生産能力を年間27,000本までに向上させ、植林活動を軌道にのせ、住民の主体的参加による持続的・継続的な森林管理・森林保全を実現しようとするものである。これにより、住民の生活改善や収入向上、さらには地域活性化の基盤をつくりだすことができる。

A-3)苗畑管理人の雇用
 苗畑を拡充・整備し、植林を軌道にのせるために、苗畑管理人を、ナルチャン村・サリジャ村それぞれ1名ずつ雇用する。プロジェクト終了時には、苗畑管理人を中心とした苗畑の自立運営を可能にする。

(B)森林資源運搬通路の延長・完成

 ナルチャン地区では、森林地帯と集落をむすぶ通路が非常に悪く、住民は、森林資源(堆肥・薪・家畜飼料・材木・薬草など)をかついで運搬しているので、かなりの苦難をしいられている。また、家畜を森につれて行き餌をあたえることにも大きな困難をともなっている。
 そこで、平成19年度に建設した、集落と森林地域とをむすぶ、森林資源運搬用の通路(trail)を森林地帯の中心部まで(約10km)延長し、堆肥、薪、家畜飼料、果樹、材木などの運搬、家畜の移動にかかわる住民の労働を軽減する。特に、ネパールでは子供や女性が運搬労働に従事することが多いので、子供や女性にとってこの効果は計り知れない。運搬が容易になると、集落近辺の木を切らずに、比較的遠くの森から広く薄く伐採することが可能になるので、森林保全にも大きく寄与する。また、物資の運搬が容易になることは、住民の所得向上を目的とした地場産業発展のためにも非常に有益である。
 なお、現在の道では通常1人あたり約30kgの物資しか運べないが、通路がよくなれば40kg程度は運べるようになると推定される。

(C)織物施設と紙漉施設の完成と事業の開始

 本プロジェクト地では現金収入がほとんどないため住民は非常に貧しい生活をしており、住民の所得向上は、地域社会の発展にとって非常に大きな課題になっている。また、植林でできた森林や地域の森林資源を適切に保全し管理していくためには、薪や材木などの森林資源の収奪以外の生計手段を発達させ、自然資源に過度に依存しなくてもすむ生活スタイルを確立する必要がある。つまり、地域住民の所得を向上させることは、森林保全事業をすすめる上でも非常に重要な課題になっている。
 サリジャ地区には、森林資源としてロクタ(ミツマタの一種)とイラクサが存在する。ロクタは、プロジェクト地内の約50ヘクタールの地域に、イラクサは約24ヘクタールの地域に多数自生しており、資源量は十分ある。
 平成19年度、ロクタを加工する紙漉施設ならびにイラクサを加工する織物施設の建設に、紙漉施設はサリジャVDC6地区(サリジャ村)に、織物施設はサリジャVDC第7地区(パタルカルカ村)において着手した。これらの所有権は各村が保有する。
 紙漉施設は、作業小屋(建物)が建設途中であるのでそれを完成させ、今回のプロジェクトにおいて必要機材を供与し、ロクタ紙を加工生産し、紙漉事業が実際に始められるようにする。
 織物施設は、昨年度、織機を設置する織機小屋の建設がおわったので、今回のプロジェクトにおいて、縫製小屋、トイレ、水道、敷地の防護壁などを建設し、織物事業を開始できるようにする。
 住民の中には、ロクタおよびイラクサ加工に関する研修をすでに受け、その技術を習得している者がすでに10数人程度いるので、その人達がほかの住民を指導することにより、加工生産体制を確立することができる。
 加工品は、紙や生地の半製品として、ネパールの中核都市であるポカラやカトマンドゥ、バクタプールなどの製品加工工場に卸すことができる。ポカラやカトマンドゥ、バクタプールでは紙や生地の需要は元々大きく、また資源採取に経費はかからないので、本施設建設が過剰投資になることはない。将来的には、森林資源を活かした地場産業として成長できるように体制をつくる。

(D)苗畑管理人・委員らの会議・研修

 果樹育成・販売関連、森林経営・所得向上に関するトレーニングを苗畑管理人・森林委員・関係住民に対しておこなう。また、紙漉事業・織物事業の成果品の製造販売(マネージメント)に関するトレーニングを、紙漉委員・織物委員(女性グループ)に対しておこなう。

(E)専門家派遣

 森林の持続的管理・保全、森林資源の利用、森林経営に関する指導をするために、また事業の進捗状況を評価し、今後の進め方を指導するために、日本人の林業専門家1名を事業地に1回派遣する。指導項目は、森林保護・管理・経営、造林の方法、間伐・刈り込み、森林生産物の見積もり・配布・販売などである。

(3)事業の維持・管理体制

 ヒマラヤ保全協会・本部スタッフ1人がプロジェクト・マネージャーをつとめる。また現地スタッフ2名を雇用する。日本からは、本部スタッフ(プロジェクト・マネージャー)および専門家1人を派遣し、事業の立ち上げ、業務調整、技術指導、評価、施設建設などの一貫したプロジェクト管理を行う。
 本部スタッフ、現地スタッフ、派遣専門家の役割分担は以下の通りである。
【本部スタッフ】プロジェクト・マネージャー(事業管理・運営責任者)。自然環境調査(地形・地質・土壌・気象・植生・生態系調査)、環境管理、自然災害対策(防災)、植林地選定、環境管理技術指導、参加型開発手法指導、報告書・ウェブサイト作成、広報等を担当。
【現地スタッフ】〔A〕事務・会計担当。プロジェクト・マネージャー補佐。〔B〕現場作業、モニタリング、現場と事務所との連絡担当。
【派遣専門家】林業専門家による植林・森林保全技術・森林経営指導、事業評価。
 本部スタッフを、プロジェクト開始時、中間、プロジェクト終了時の計3回、プロジェクト地に派遣する。第1回派遣では、プロジェクト計画を確認するとともに、プロジェクトを軌道にのせる。第2回派遣では、苗畑運営と植林、施設等建設の進捗状況を確認し、問題点を指摘し、プロジェクト運営を指導する。第3回派遣では、プロジェクトの目標達成を確認し、報告書を作成する。
 森林専門家は、植林が軌道にのった後、加工施設建設開始時に21日間派遣し、苗畑管理人・森林委員・住民を指導する。
 プロジェクトの進捗状況は、現地から日常的にヒマラヤ保全協会・東京事務所に報告される。ヒマラヤ保全協会では、モニタリング結果をまとめ会員に報告するとともに、その内容について専門家らとともに協議し、指導や助言をプロジェクト・サイトに対して随時おこなう。プロジェクトの進行状況はウェブサイトや広報誌などによりひろく一般に広報する。
 本年度の事業終了後は、地域住民による持続的な森林保全および地域活性化につなげる。

(4)事業実施により裨益すると予想される人数(裨益人口)

 ナルチャン村、サリジャ村および周辺村の住民約10,000

(5)事業により期待される効果

(A)持続的・継続的な森林保全・自然環境保全が可能になる

 本プロジェクトにより、3ヵ年計画が終了し、長期計画へ着実に移行でき、持続的・継続的な森林保全・自然環境保全が可能になる。
 「森林は緑のダム」と言われるように、森林ができると樹木が土地に根をはり、地下水をはぐくむ。ヒマラヤは南アジアの水源として重要であり、森林は、その水資源を涵養するためになくてはならないものである。また、雨季の豪雨のとき、樹木の枝葉がクッションとなり雨滴が表土に直接あたらなくなるので、土壌流出をふせぐ効果も生じる。
 水資源の涵養、土壌保全のほかにも、動植物の保護による生物多様性の保全、景観の保護など自然環境を保全するための様々な効果が生み出される。

(B)住民に森林資源を供給する

 ネパール・ヒマラヤで暮らす人々は、森林の中に入り込んだ生活をしており、その暮らしは森林資源に高度に依存してる。自然保護だけを目的にするのであれば保護区(保護林)を増やせばよいが、それだけだと、ヒマラヤ山村の人々は生活していけなくなってしまう。
 たとえば、ネパール全体で消費する全エネルギーの70%が薪であると言われている。家庭での調理用、暖房用の他、レンガ製造などの工業用熱源として薪は使用されている。また、山間部では放牧する草地が少ないため、樹木の葉を家畜飼料として人力であつめて家畜に食べさせている。つまり、彼らは、薪や家畜飼料を森林から絶えずあつめないと日々の生活が成り立たないという、森林に大きく依存したライフスタイルをもっている。
 さらに、森林に溜まる落ち葉はやせた畑の肥料としても活用され、豊かな森林は水をはぐくみ畑に農業用水を供給する。ヒマラヤには「耕して天に至る段々畑」があり、この段々畑を支える基盤が森林である。
 このように、本事業を実施すれば、薪・家畜飼料・材木・食品・薬草・堆肥・換金作物・水などの「森林資源」を住民に供給し、住民のもっとも重要な生活基盤をつくることになるのである。

(C)住民の生活を改善する

 ネパール・ヒマラヤの人々は、薪や堆肥、家畜飼料を採取するために長時間の重労働にたずさわることを余儀なくされ、特に女性の健康維持と社会参加、教育を受ける機会の減少など社会的な悪影響が出ている。
 本事業により、薪やその他の森林資源を豊富に生み出す森林が集落の近くに再生されると、農業の改善ととともに、住民の社会生活も改善できる。本事業では、住民の生活基盤となる森林を「生活林」と命名し、単に木を生産するだけではなく、地域住民の生活を積極的に改善する努力をつづけることになる。
 これにより、地域住民が植林活動に主体的に参加するようになる。この取り組みは、住民みずからがみずからの森をそだてるといった作業であり、住民が主体的に参加しながら、持続的継続的に自然環境を再生・保全していくプロセスである。
 「生活林」は、人手が入ってこそ健全に保たれる森林であるので、住民の主体的参加があってこそ永続的に森林を保全していくことができる。こうして、森林を利用しつつ育てるという仕組みができあがれば、森林と住民の循環的関係が構築され、自然と人間が共生していく道をひらいていくことができる。

(D)住民の生計向上

 ヒマラヤ山村民は現金収入を得る手段がなくて貧しい生活をおくっているが、本地域の森林資源を有効に利用して紙漉事業・織物事業を開始すれば、ある程度の現金収入が得られるようになり、住民の生計を向上させることができる。

(E)地域を活性化

 本事業は住民参加によりおこなわれるので、自然環境保全に関する地域住民の認識が深まるだけでなく、コミュニティ能力の向上も実現する。
 また、環境保全・森林利用・村落開発を有機的にむすびつけ、森林保全と森林利用を同時に推進するので、自然環境と地域社会を調和させる効果がある。環境保全と社会開発を両立させてこそ地域社会を持続的に活性化させることができる。


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