事業内容の解説
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 解 説
 東京都千代田区は、「世界を学ぼう! -アジアのこと、国際協力のこと、NGOのこと-(環境・貧困・平和・人権)」と題して、区民を対象とした地球市民講座を毎年開催している。
 2006年11月15日、その2006年度第3回として「国際協力現場のNGOからの報告 -途上国の環境問題の取り組み-」が開催され、(財)オイスカと(特活)ヒマラヤ保全協会がそれぞれの活動内容を発表した(注)。
 以下にしめす文章は、当日、ヒマラヤ保全協会が発表した内容を簡潔にまとめたものである。
(注)「国際協力現場のNGOからの報告 -途上国の環境問題の取り組み-」(人々の自立と環境保全は両立するのか? 農村開発や植林の事例から)
 講師:狩野ますみ(財団法人 オイスカ)、田野倉達弘(特定非営利活動法人 ヒマラヤ保全協会)
 ファシリテーター:山崎唯司(特定非営利活動法人 国際協力NGOセンター)

事業の概要

ネパール ヒマラヤ保全協会は、ネパール・ヒマラヤで、環境保全事業などに長年とり組んでいる国際協力NGOです。事業地はネパール西部に位置しています(図1)。

ヒマラヤ,環境,国際協力,KJ法 ヒマラヤ保全協会には4つのキーワードがあります。「ヒマラヤ」「環境保全」「国際協力」「KJ法」です。これらのうち「ヒマラヤ」と「KJ法」は縦軸に、「環境保全」と「国際協力」は横軸になり、座標軸をつくります(図2)。
 私たちは、これらの座標軸からなる座標系の中で活動しています。

ヒマラヤ,環境,国際協力,KJ法,ツアー この座標系において、具体的には「森林保全事業」「生活改善事業」「参画型アプローチ・ワークショップ」「山岳エコロジースクール」といったプロジェクトをおこなっています。
 それぞれを座標系に位置づけると、第1象限には「森林保全事業」、第2象限には「生活改善事業」、第3象限には「参画型アプローチ・ワークショップ」、第4象限には「山岳エコロジースクール」がそれぞれ配置されます(図3)。
 第1象限の「森林保全事業」ではヒマラヤと環境保全が、第2象限の「生活改善事業」ではヒマラヤと国際協力が、第3象限の「参画型アプローチ・ワークショップ」では国際協力とKJ法が、第4象限の「山岳エコロジースクール」では環境保全とKJ法がそれぞれ重視されます。
 これらのプロジェクトは、それぞれが単独におこなわれるのではなく、相互に関連づけながらおこなわれています。

森林保全事業

 次に、それぞれのプロジェクトについてご説明します。

 森林保全事業は、1973年、「ロープライン・プロジェクト」からはじまりました。これは、集落近縁の森林が森林伐採により急激に後退していくのをふせぐために、集落からはなれた遠くの豊かな森の木を計画的に伐採し、切りだされた薪や飼料木などをロープラインをつかって集落まで運搬するというプロジェクトでした。これにより森林の後退はとまりました。豊かな森を計画的に利用している限り森は破壊されません。
 その後、1992年からは「アンナプルナ総合環境保全プロジェクト」を開始し、ロープラインをより広い範囲に敷設し、広域的な環境保全に取り組みました。
 1995年には「森林保全5ヵ年計画」を開始し、今度は苗畑で苗木を育成し、それを植樹するという積極的な森林再生プロジェクトをはじめました。
 2000年には「森林保全・苗畑自立3ヵ年計画」を開始し、苗畑を地元にハンドオーバーし、いずれは住民が自立して森林保全を継続できるように準備をはじめました。
 2005年からは、新事業地を開拓し、「生活林づくりプロジェクト」をあらたに開始しました。生活林とは、住民の生活に直接役立ち、住民の生活をささえる生産性の高い森林のことです。この森は、薪・材木・飼料木・換金作物などの資源を生みだします。
 このように、私たちの森林保全事業は、ロープライン・プロジェクトによる第1期、植林による第2期を踏まえ、現在は生活林づくりの第3期に入っています。

生活改善事業

 生活改善事業は、1973年、「パイプライン・プロジェクト」からはじまりました。これは、飲料水などを住民に供給するために上水道を敷設するプロジェクトであり、ヒマラヤでは初めての試みでした。
 1979年には「自然力ボートプロジェクト」を開始しました。川の流れを利用して移動するボートを開発し、住民が川の対岸にわたれるようにました。
 1992年からは、「保健衛生プロジェクト」をはじめ、ヘルスポストを建設、保健師を養成しました。
 2000年からは「収入向上プロジェクト」を開始し、ある程度の現金収入が村に入るようにしました。具体的には、チーズを製造し、周辺のロッジに販売して現金収入を得るという方法です。私たちは、西ネパールで初めてチーズの製造に成功しました。
 2005年からは「森林資源利用プロジェクト」をはじめました。これは、果樹や材木などを積極的に生産し、地域に生育する樹木から布や紙※を製造し販売するというものです。
 その他、小学生への奨学金支給、伝統文化保全などもおこないました。

※ロクタ(ネパール名)とは、ジンチョウゲの一種(ジンチョウゲ科)の常緑樹であり、ヒマラヤ山麓の1,800〜3,000mに自生しています。3月に白い花をさかせ、4月下旬に種が成熟します。樹皮から手すき紙をつくります。繊維は非常に強いので、ロクタ紙は破れにくく長持ちします。布のように染色することも可能です。ロクタ紙の歴史は古く、1,000年以上前から経典などにつかわれており、ネパールの重要伝統産業になっています。写真は、できあがったロクタ紙から封筒をつくっているところです。村の女性にも働く機会が生じます。

参画型アプローチ・ワークショップ

 私たちは、参画型アプローチとして、当協会創設者の川喜田二郎が創案した「KJ法」をつかっています。国内では長年、ヒマラヤ保全協会のスタッフや会員を対象にしてKJ法のワークショップをおこなっていましたが、ネパールにおいてネパール人のためにKJ法の正則なワークショップをひらいたのは1997年が最初です。教師や学生約30人にKJ法を伝授しました。1998年にはそのフォローアップもおこないました。
 2000年には、KJ法をつかってネパール人関係者が主体になって3ヵ年計画を立案、開始しました。
 2001年には、正則なKJ法を住民に伝授し、住民が主体になって計画づくりをおこないました。
 2005年には、国際協力に最適化した方法として「参画型アプローチ」を定式化しました。現在、内外においてワークショップを開催し、ネパール人・日本人を問わず問題解決能力を向上させています。

山岳エコロジースクール

 1985年に、山岳エコロジー・キャンプを開催し、約40人の日本人ボランティアがネパールに行きました。
 それを踏まえ、1992年に、第1回「山岳エコロジースクール」を開催しました。現地の人々とともに学び合い、環境問題にとりくむ試みであり、エコツーリズムの先駆けでした。
 山岳エコロジースクールは、その後ほぼ毎年開催され、多数の日本人ボランティアがヒマラヤ保全協会の現地プロジェクトに参画しています。2006年には第13回山岳エコロジースクールを開催します。
 なお、山岳エコロジースクールの他に、スタディツアー(エコツアー)も年1〜2回実施しています。

 以上のように、私たちは、「ヒマラヤ」「環境保全」「国際協力」「KJ法」という4つのキーワードがつくりだす独自の座標系において、おもに4つのプロジェクトをおこなってきました。
 これら4つを相互に関連づけて、結局、何をめざしているのか。座標軸の原点には何がくるのか。それは「地域の活性化」です。私たちの座標系の原点には地域の活性化が位置づけられます(図4)。
 私たちは、地域活性化を漠然とめざすのではなく、具体的な4つのプロジェクトをおこないながら、回転させながら、全体として地域活性化をめざす。しかもその地域とは、独自の風土をもつ、自然環境から人間社会までのすべてをふくむ大きな体系です。私たちはその独自の風土に根差して、環境と社会、あるいは自然と人間の相互作用と調和を重視したアプローチを採用しています。
 このように私たちは、たえず原点を見直し、原点にに立ち返り、原点を見失わないようして、個々のプロジェクトに取り組んでいます。このような方法があってこそ、私たちの活動は一本の筋の通った力強いものになりえるのです。


質疑応答

質問「どうしてヒマラヤなのですか?」

答え「ヒマラヤ保全協会創設者の川喜田二郎は、そもそもは、第一次マナスル登山隊の一員として1953年にネパール・ヒマラヤに入りました。最初は登山であり、ヒマラヤ探検であったのです。その後、ネパール・ヒマラヤの学術的な調査をつみかさねるうちに、大規模な環境破壊や住民の生活苦の実情を知り、技術協力・国際協力を決意したという経緯があります。
 したがって、私たちの活動には、ヒマラヤにおける「登山・探検」→「学術調査」→「国際協力」という大きな流れがあります」

質問「住民の自立のためにどのようなことをしていますか?」

答え「たとえば、森林保全事業では、植林をすすめるだけではなく、村に森林委員会を組織し、苗畑管理人を養成し、村人みずからが森林再生、森林管理をできるように体制を構築してきています。植林がハード的な作業だとすると、これはソフト的な仕事です。このソフト的な仕事が実際には大変なのです。
 森林委員会がしっかりしてくると、森林委員や苗畑管理人が村人を指導できるようになり、持続的な森林保全が可能になります」

質問「植林の優先順位はどのようになっていますか?

答え「第一に、住民の生命の安全のために防災林をつくります。ヒマラヤ山村は山の斜面に発達しているため、雨季には毎年、地滑りなどの土砂災害が多発します。これを防止するためには森林を再生させる以外にありません。事前に危険地域をよく調査し、植林優先地を選定します」

質問「住民の収入向上・生活向上と森林保全とをどうむすびつけるのですか?」

答え「ひとつはアグロフォレストリーの実践です。ポンカンなどの果樹類などを積極的に植えています。家畜の餌になる飼料木もたくさん植えています。牛がよい飼料を食べるようになると牛乳の出がよくなり、質も向上します。また最近では、材木の生産、紙や布の生産もおこなっています。
 薪や飼料木が集落の近くでとれるようになれば、労働が軽減されることは言うまでもありません。さらに、森林が再生されれば保水力が増し、水源確保になり、土砂災害などの防止にも役立ちます」

参加者の感想

  • 参画型アプローチ・ワークショップを具体的に知りたかったです。
  • 山の木が増えた様子などが写真でやかりやすかったです。
  • 環境問題や植林と、国際協力の関係についてよくわかりました。
  • これからタイに行くので、国際協力の勉強になりました。
  • 同じ森林環境にたずさわる活動でも、亜熱帯や熱帯が多いオイスカの活動地域と、ヒマラヤのネパールとでは、随分印象がちがって見えました。今後、海洋環境での国際協力の現場の話も聞きたいです。
  • 森林は緑化のためだけでなく、生活のためにも必要な国があることがわかりました。こういったその国の文化を変えさせるのではなく、尊重することが大切だとわかりました。
  • 国際協力事業では、現地の住民の人々との理解・協力が必要なのだとつよく感じました。
  • 私たち日本人と、現地の人々との自然のとらえ方のちがいに驚きました。